「天空の蜂」
遅れ馳せながら東野 圭吾原作の映画化作品「天空の蜂」を鑑賞しました。20年前に発表された原作が、東日本大震災の原発事故を経た現代に蘇る骨太作品。遠隔操作によって奪われ、ターゲットにされた原発上空でホバリングする自衛隊最新鋭の巨大ヘリ " ビッグB " が燃料切れで原発に落下するタイムリミットは8時間。犯人の要求は日本全土の原発破棄!原発テロに立ち向かう人々と犯人の攻防戦が描かれたノンストップドラマは一気に加速!この緊迫感と結末の空しさという点は「新幹線大爆破!」と共通するものがあります。
現実を考えた場合、トップシークレットの最新鋭機がお披露目の当日、入場者に対する厳重な警備態勢の割には、肝心なヘリには誰もいないという様子に少々違和感を覚えてしまいましたが、そこは1995年の出来事ですから片目をつぶるとして、作品自体は全篇通じ見応えのある熱い作品でした。鑑賞者の犯人に対する意識の反らし方も逸品です。
仲間 由紀恵は本作では、珍しい役どころを演じていますが、脇に回っても印象に残るところは、やっぱスターですね。
日本が元気をなくしてしまった要因として考えられる、バブル崩壊と原発の安全性神話の崩壊。元気というよりは自信を失ってしまったかのようにも見えます。バブルは浮かれて痛い目にあったのだから自業自得としても原発事故は、あまりにも多くの犠牲を伴いました。私が中学生の頃は授業で、これからの日本のエネルギー問題を支えて行くのは原子力であると教わりましたし、高速増殖炉もんじゅについても夢の原発としてアメリカの原発関係者が賞賛していた番組を見た覚えがあります。ところがその神話も震災により木端微塵。当時東電は矢面に立たされ、世間から激しいバッシングを受けていましたが、ちょうどそのころ職場の同僚が「友人は大学卒業前、東電に就職して社会の為に働きたいと言ってその後入社した。そんな彼のことを俺は責められないよ」と言う言葉が記憶ではなく、心に引っ掛かりました。このように様々な境遇で働き、生きて行かなければならない人たちもいるということを考えると無責任に賛成、反対と声を上げればよいという問題ではないこともひとつの事実ではないかと思います。ただ方向性は見えて来た訳ですから今は地道に努力するしかないですね。鑑賞中に同僚の言葉を思い出しちゃいました。
守りたいものの為に命を懸けた男と守りたくても、どうすることも出来なかった男の明暗。犯人の悲しい過去が余韻を残し、未来を信じたいと願わずにはいられない感動もありで、本年の鑑賞作品で心に残る1本となりました。
監督:堤 幸彦
脚本:楠野 一郎
原作:東野 圭吾
キャスト
湯原 一彰(江口 洋介)、三島 幸一(本木 雅弘)、赤嶺 淳子(仲間 由紀恵)、雑賀 勲(綾野 剛)、室伏 周吉(柄本 明)、中塚 一実(國村 隼)他
2015年日本映画
上映時間:2時間18分
実はこの作品、早く観たいと思っていました。なぜなら上映前の9月6日(日)にニッポン放送のラジオ番組「マイプレイリスト」で國村 隼さんがパーソナリティーを務め、エンディングで「天空の蜂」についてのPRを聴いたからです。國村 隼さんは、テロのターゲットにされた原発の所長役を演じていますが、この役を受けて一番に頭に浮かんだのは福島原発でよくテレビに出ていた所長さん(故人)だそうです。非常に微妙な題材ではありますが、フィクションでありながらも今自分たちが突きつけられている現実が感じられる。伝わるものは大きいと結ばれていました。
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